TRPG 配布シナリオ
◆アリアンロッドRPG 眠れる森の妖精姫◆使用規約
・このシナリオは、自由にご使用ください。プレイ環境に応じて、シナリオ改変して頂いても構いません。
・使用報告は任意ですが、感想やリプレイを頂けたら嬉しいです。
・「TRPG『シナリオ名』質問」というタイトルでメールを頂ければ、遅くなるかもしれませんが返信致します。
■シナリオデータ
プレイヤー人数:3人〜5人
キャラクターレベル:2〜3(ギルド未結成)
プレイ時間:3〜4時間
使用ルールブック:基本ルールブック、エネミーガイド、スキルガイド、アイテムガイド、ドレッドダンジョン
■ストーリー
PC達の住む街の外れにある、誰にも解けない茨に囲まれた敷地。「助けを求める美しいエルダナーンの姫 = 妖精姫」の夢を冒険者達が見始めると同時期に、茨がほどくことが可能になった。
妖精姫の正体は邪悪化したエルダナーンの魔法使い・ヴェルナであり、茨は運命の妖精がほどこした封印。妖精姫の夢は、100年の眠りから醒めたヴェルナが自分のエサとなる冒険者を誘うための罠だった。
幻の第七属性“運命”の属性を持つ糸車の精霊に認められ、茨の敷地を抜けて魔女ヴェルナを倒せばシナリオクリアとなる。
■キャラクター作成
コンストラクション、クイックスタートは問わない。
当シナリオは「PC達が出会い、ギルドを結成するまで」の物語を想定している。既にギルドを結成している既存キャラクターを使う場合は、GMはギルドスキルを考慮してデータを修正すること。
●今回予告
茨に抱かれる高い塔の最上階には、美しいエルダナーンの少女が眠っているらしいー……。
夢見る冒険者が挑むのは、茨に囲まれた敷地。
運命をきりひらいた先に待つのはなんなのか。
アリアンロッド 『眠れる森の妖精姫』
冒険の舞台が君を待つ。
(『眠れる森の美女』を知らないPLがいた場合に読み上げること)
●忙しい人のための『眠れる森の美女』
子どもを欲しがっていた国王夫妻に、待望の女の子が生まれた。
お祝いの宴をひらき、国中の魔法使いを呼ぼうとしたが、金のお皿が一枚だけ足りない。
仕方が無いので、十三人の魔法使いのうち、十二人だけを招待して祝宴をひらく。
十二人の魔法使いは、それぞれ、姫に贈り物をする。
「わたくしは知性をあげましょう」
「わたくしは美貌を」
「わたくしは……」
十一人目が祝福を授けたとき、呼ばれなかった十三人目の魔法使いが祝宴に乱入した。
「わたしだけハブるなんて、いい面の皮だね! わたしも姫にプレゼントをしよう。十五歳の誕生日、糸車の糸つむに刺されて死ぬがいい!」
悲しむ国王夫妻のため、十二人目の魔法使いは、呪いをちょっと上書き修正。
「姫は死にません、ただ百年眠るだけ」
それでも心配な国王夫妻は国中の糸車を燃やしたが、十五歳の誕生日、姫は老婆(十三人目の魔法使い)にそそのかされ、糸つむに刺さって眠ってしまう。
姫の眠りに合わせて、城も茨に包まれて眠りにおちる。
百年後。
近くの国の王子がウワサを聞きつけ、城を訪れる。数々の男の命を奪った茨は、王子を歓迎するように、ひとりでにほどけて姫の元へ。
おめざちゅーで起きた姫は王子と結婚し、幸せに暮らしましたとさ。
●シナリオハンドアウト
今回予告を読み上げた後でプレイヤーに提示し、選択してもらうこと。希望がなければ、番号の若い順に割り振るとよい。
※ 選んだ番号によって、どの情報収集判定にボーナスがつくかが変化する。番号による有利不利は発生しない。
PC1 糸車の夢
銀色の夢を見た。
カラカラ、カラカラ、音が響く。聖なる調べに満たされた空間で君は小さな声を聞いた。
“止めて……邪悪……助けて……”
夢から醒めた君が神殿に行くと、あるダンジョンの噂でもちきりだった。
あの夢は神託だったのかもしれない。君は茨に囲まれた塔に行くことにした。
PC2 妖精姫の夢
美しい少女の夢を見た。
茨に囲まれた塔の最上階。きらきらと輝く宝物に囲まれて、美しいエルダナーンの少女が眠っていた。
少女の胸に刺さった糸つむを抜くと、金色のまつげがふるえ、碧眼がひらき、イチゴのような唇に笑みが浮かぶ。
夢から醒めた君が神殿に行くと、あるダンジョンの噂でもちきりだった。
あの夢は神託だったのかもしれない。君は茨に囲まれた塔に行くことにした。
PC3 アリアンロッドの糸つむ
近頃ウワサになっている茨の塔には、「アリアンロッドの糸つむ」と呼ばれるマジックアイテムが眠っているらしい。
どんな物かはわからないが、高く売れるだろうことは確か。君にはその情報だけで充分だ。
君は茨に囲まれた塔に行くことにした。
PC4 神殿からの依頼
街外れに、茨に囲まれた敷地がある。
茨がけして外れないので放置されていたが近頃「妖精姫の夢を見た」と敷地に挑み、帰ってこない冒険者が増えている。
「敷地内で何が起こっているのかを調べ、できれば原因を排除してほしい」
依頼ならば断る理由はない。君は茨に囲まれた塔に行くことにした。
PC5 君は自由だ
ひまだ。
君は茨に囲まれた塔に行くことにした。
オープニングフェイズ
●シーン1:糸車の夢
◆描写
銀色の空間に君はいた。
“目覚める……100年……”
“邪悪……止めて……助けて……”
カラカラと糸車の回る音にまぎれて、悲痛な声が耳を打つ。
――銀は女神アリアンロッドの色。かの女神は『銀の輪の女王』、すべての命の運命を糸車で紡いでいるという。
目覚めた君が神殿に向かうと、冒険者の噂話が聞こえてくる。
◆解説
ヴェルナの封印が解けかけていることに危機感を覚えた運命の糸車の妖精に「ヴェルナを止めて」と頼まれるシーン。運命の妖精は封印に力を注いでいるため、声は途切れ途切れにしか聞こえない。
PC1に幻想的な印象をつけた後、目覚めて神殿のシーンに切り替え、以下のセリフを伝える。
◆セリフ
▼冒険者
「なあ知ってるか、街外れの茨の敷地」
「茨が敷地を覆ってちょうど100年なんだってな」
「高い塔に、邪悪な妖魔がはりついてるのを見た奴がいるんだと」
◆結末
あの夢は、女神か女神にまつわるモノからの神託(おつげ)かもしれない。街外れの塔を目指すことにした。
●シーン2:妖精姫の夢
◆描写
茨に囲まれた塔の最上階、眠る美しいエルダナーンの少女。
少女を眠らせている原因は、胸に刺さる銀の糸つむ。抜いてやれば、少女は嬉しそうに微笑んだ。
幸せな目覚めのままに神殿に向かうと、冒険者の噂話が聞こえてくる。
◆解説
ヴェルナが冒険者の生気を食らうために張った罠にかかるシーン。幻想的な雰囲気で、シーン1のイメージと重ねてミスリードを行うこと。
◆セリフ
▼冒険者
「なあ知ってるか、街外れの茨の塔」
「妖精姫が眠ってるってヤツだろ。さっきも若い奴らが向かったぜ」
「呪われて眠ってんのかね。それが本当なら、助けてやりてえなあ」
◆結末
あの夢は、眠る少女からのSOSだったのだろうか? 街外れの塔を目指すことにした。
●シーン3:アリアンロッドの糸つむ
◆描写
(PCの希望に合わせて演出すること)
◆解説
元素(魔法属性)の説明、舞台となるダンジョンが貴族の領地だったこと、幻の第7元素“運命”の存在をそれとなく伝えるシーン。PLが魔法属性について知らない場合は、説明をはさむこと。
舞台は、家族と囲む食卓でも、酒場から情報を買っていても、どこでも構わない。
◆セリフ
「近頃、神殿や冒険者の間で噂になってる『茨の塔』って知ってるかい?」
「そう、妖精姫が眠ってるってヤツさ。その塔のある敷地は、昔はある貴族サマの屋敷でね。妖精がたくさん住み着いてたんだとさ」
「その中には、幻の第7元素“運命”の属性を持つ妖精もいて、茨の塔には、『アリアンロッドの糸つむ』なんて幻のアイテムがあるって話だ」
「ホントかウソかはわからんがね」
◆結末
幻のマジックアイテムを狙う輩は多いだろう。早く街外れに行ってゲットしなくては。
●シーン4:神殿からの依頼
◆描写
神殿に行くと、妙にざわついていた。そこかしこで冒険者同士が情報交換を行っており、「妖精姫」「100年」などのキーワードが聞こえる。
受付に向かうと、顔見知りの神官が出迎えてくれた。
◆解説
神殿が妖精姫の屋敷を不審がり、調査に乗り出していることを示すシーン。
屋敷がかつて「ステファン家」の敷地だったことや、PC3の目的である銀の糸車がステファン家に伝わる物であるとわかる。
セリフにある「ステファン家について」は、PCから聞かれた場合のみ答えること。
PC4ひとりが受ける形のため、報酬はPC4ひとり分の適正価格を提示する。値上げ交渉を始めたら、「調査結果によって変動する」と答えること。PLが不安がっているようならば、「ちゃんと協力してダンジョンを制覇したなら、ギルドメンバー分は支払う」とPLに約束しても構わない。
◆セリフ
▼神官
「おはようございます、PC4さん」
「依頼でしたら、神殿からのものがあります。街外れの茨に囲まれた敷地はご存知ですか?」
「糸と布取引をしていた商いとしていたステファン家の敷地です。100年前に茨が敷地を覆いました。資料によれば、ステファン家に伝わる銀の糸車の影響と言うことですが……糸車と茨の相関関係が不明瞭なため、公的には原因不明とされています。
どんな高レベルの冒険者が挑んでも、けして茨が外れなかったため、放置されていました」
「『妖精姫』の夢を一部の冒険者が見るようになった後から、茨を外すことが可能となり、中に入れるようになりました。
それ自体は問題ありません。ですが、そのまま帰らぬ冒険者が多い。中に妖魔が潜伏している可能性があるため、正式に神殿が冒険者に調査依頼をすることになりました」
「依頼内容は、茨の敷地の調査と中に潜伏する妖魔の討伐。報酬は150Gとなります」
「調査報告によっては危険度が高かったとして、プラス報酬が出る可能性もあります。他ダンジョンと同じく、冒険途中で入手した物品・金銭は冒険者の取得物となります」
「それでは、よろしくお願いします」
(ステファン家について)「資料によれば、上質の糸と布を扱っていた商家とありますね」
「妖精と親交が篤かったようです」
「茨の原因を『銀の糸車』と証言したのは妖精のようですね。どの妖精も混乱状態で泣きわめいていたため、細かな聞き取りはできなかったとあります」
「当主夫妻と、跡取り娘がいたはずです。茨に覆われてのち、3人の姿は発見されておりません」
◆結末
多くの冒険者が帰らないとは不穏だ。しっかりとアイテムを補充して、街外れの屋敷に向かおう。
●シーン5:君は自由だ。
◆解説
PCの希望に沿って、自由に描写すること。最終的に、街外れの塔に行けば良い。
●シーン6:合流
◆描写
街外れ。ボロボロになった柵と門の代わりに、絡みつく茨が侵入者を拒んでいる。
茨の向こうはよく見えないが、遠くに高い塔と、大きな屋敷が見える。
夢で見た塔だ……PC2は確信する。
さてどうしようかと悩んでいると、同じように門前で悩む冒険者が、自分のほかに(PC人数−1)人ほどいるようだ。
◆解説
シーン開始前に「街外れ(ダンジョン)に入れば、街には戻れない」旨を伝え、買い物を終わらせてもらうこと。
PC全員に、合流・自己紹介・情報交換をしてもらう。ギルドを組むまでとはいかずとも、「ダンジョンを一緒に攻略する」ところまで仲良くなることが好ましい。
◆結末
屋敷をひとりで攻略しなければならない事態は回避できたようだ。さあ、敷地に入ろう。
ミドルフェイズ
●シーン1:茨を切りひらけ!
◆描写
遠くに見えるは茨に絡まる館と高い塔。塔からはまがまがしい気配が漏れ出している。敷地内にはあらゆる場所に茨が絡まっており、茨をどうにかしないと先に進めそうもない。
◆解説・茨判定
以降、先へと進む(シーンを切り替える)度に「茨をほどく」判定が必要となる旨をPLに説明する。判定値は以下の通り。
絡んだ茨をほどく:【器用】12
茨を引き千切る:【筋力】11
目の前の茨を殲滅:MP使うスキルを使って(MPを使って)ダメージを与える
茨を解くと、「ヴェルナ過去回想」(シナリオ最下部に一覧)を開示。対応したシーンを演出すること。いちばん最初に開示される回想シーンは「1、現在」である。
◆結末
茨をほどいた途端に、全員の脳裏に浮かんだ奇妙な光景。その謎は、進まなければわかりそうもない。
●シーン2:初戦
◆描写
茨を切りひらいて進んだ一行の前に、コロコロと巨大な卵が転がってきた。
一行から10mほど手前でぴたりと止まった卵は、にょきんと手足を伸ばすと、どこからともなくラッパを構える。
同時に、すさまじい地響きと共に風をまとった獣が駆けてきて、卵の前で止まる。
獣が吼え、開戦のラッパが高らかに響き渡った。
◆解説
エッグゴーレム(エネミーガイドP.100)1体とストームランナー(エネミーガイドP.106)1体を1エンゲージとし、3エンゲージ(PCから5m前方、PCから10m後方に2エンゲージ)を構成する。
道幅が狭く、ストームランナーが風をまとわせているため、前方5m位置のストームランナーの隣を駆け抜けて後方にエンゲージするのは不可とする。[飛行]して飛び越えるのは可としても良い。ストームランナーは《突破》があるので、前方に位置するストームランナーを越えて敵にエンゲージすることが可能。
エッグゴーレムは、自分と同エンゲージにいたストームランナーを援護する形で行動する。
※シーン4で、空いたポーション瓶は何本かが重要となる。GMはひそかに数えておくこと。
◆セリフ
▼風獣
「獲物、獲物……生気、血肉、寄コセ!!」
◆結末
敷地には、奇妙な魔物がはびこっているようだ。注意して進もう。
●シーン3:わかれみち
◆茨判定
開示される過去は「2、生まれた日」である。
◆描写
先に進んでゆくと、少しずつ道は広くなる。
目の前には、太い道が続いている。しかし、横道の茨をどうにかすれば、細い道の先へも進めそうだ。
◆解説
細い道を進むと「シーン4:妖精たちのおしゃべり」に、太い道を進むと「シーン5:壊された絆」に分岐する。
◆結末
君達は○○の道へと進むことにした。
●シーン4:妖精たちのおしゃべり
◆茨判定
開示される過去は「3、幼少期」。
◆描写1
細い道を歩いてゆくと、きらきらと光る泉が見えた。
泉のまわりには、果物を食べながらおしゃべりをしている、ちいさな妖精。花のドレスをまとったピクシー、エプロンをつけたブラウニー。アゲハ蝶の羽根を持つのはフェアリーだろうか。
3匹は楽しそうにおしゃべりをしている。内容までは聞こえない。
◆解説1
フェアリーズと遭遇。
ブラウニー&ピクシーはステファン家に住んでいた(そして逃げ遅れた)妖精、フェアリーは屋敷の封印が解けたため様子を見に来た現代っ子妖精である。
妖精達は優しくするとなつき、威圧的な態度を取ると逃亡する。PCの中にエルダナーンがいるならば、最初、ブラウニーとピクシーはヴェルナと同種族であるエルフを怖がり、フェアリーは怯える2匹を守ろうとPC達を威嚇する。
フェアリーズと良好な関係を築けたならば、ステファン家やヴェルナについて判定無く情報収集が可能。
妖精達の理解はおおむね正しいが、邪悪化した現在の姿(赤髪に刺青)のヴェルナの姿は見ていないため、「赤髪刺青の女 = ステファン家の娘ヴェルナ」だという確証は得られない。また、ヴェルナがどうして邪悪化してしまったのかについては、まったく理解していない。
妖精はPCが暴力的な態度を取らない限り泉にいるため、情報収集を行いながら、泉や木々を調べることも可能である。その場合は、描写2に繋ぐこと。
◆セリフ1
▼ブラウニー&ピクシー
(PCを発見時)「ヒトの子! ヒトの子!」
(エルフを発見時)「ながいみみ! ヴェルナとおなじ! こわい!」
(やさしくされた)「いじめない……? やさしい……すき」
(脅かされた)「ヒトの子、こわい! こわい!」(シーンから退場する)
(屋敷について、ブラウニー)「おやしき? ぼく、いたよ、おてつだいしてたの!」
「おやしきのひと、みんなやさしかったよ。ぼく、いっしょにごはんたべてた。でも、もう、だれもいないの。100ねんまえからだれもいないの」
(屋敷について、ピクシー)「ここはとってもとってもいい場所だったです」
「ヒトの子はみーんなみーんな優しくて、妖精たちと仲良しでした。妖精はとってもとっても嬉しくて、風を吹かせて種子を飛ばし、大地を豊かにして食べ物を実らせ、流れる水をきれいにしました。炎をもって冬をあたため、朝には光を運び、夜には闇の安らぎをあげました。ここに生まれる子どもには、7人の妖精が祝福のキスをしました」
(ヴェルナって誰?)「光の色したきれいな髪の女の子。ともだちだった女の子」
(ヴェルナは何かした? or 屋敷はどうして茨に囲まれた?)「ヴェルナが、妖精たちとお屋敷の人たちにひどいことをしました(妖精を殺して魔力と生命力を奪った)」
(ヴェルナはどうなった?、ピクシー)「わかりません。ヴェルナがひどいことして、銀の妖精さまが悲しんで、茨が屋敷を囲った。わたしたちはここにいました。わかりません」
(アリアンロッドの糸つむについて、ブラウニー)「ぎんいろのいとつむ、あるよ」
「きらきらきらきら、とってもきれい。ようせいさま、とってもきれい!」
(妖精様について、ブラウニー)「ようせいさま、銀色の糸つむにいるの」
「ようせいさまはとくべつなの。めったにあえないの」
「銀色の糸、きらきらきらきら、とってもきれい!(強大な力があふれてきらめいている)」
▼フェアリー
(ブラピクが怯え中)「この子たちにひどいことしたら、許さないんだから!」
◆描写2
妖精たちが飛び交っていた泉は、きらきらとやさしい光を放っている。
「その泉は、わたしたちが祝福をさずけました!」
在りし日を思い出し、ピクシーが無邪気に笑って言う。周辺の木々が同意するようにやさしく揺れた。
◆解説2
PCはひとり1回、探索を行うことが可能。探索できる箇所は「木」と「泉」である。
木は「果実(『アイテムガイド』P.103)×1ダイス」「野菜(『アイテムガイド』P.103)×1ダイス」が採取可能。
泉はイタズラ好きの妖精たちが祝福を与えており、くむ度に効果が変わる。ポーションの空き瓶に詰めると持ち運びが可能。効果は「聖水(『アイテムガイド』P,101)」「魔導酒(『アイテムガイド』P,103)」「霊水(『アイテムガイド』P,103)」の中からランダムとなる。
◆結末
「あなたたちは、他の場所に行くべきだわ。ここには、こんなにも妖精の血がしみついてるもの」
フェアリーに導かれ、ブラウニーとピクシーは空へはばたいていった。
●シーン5:壊された絆
◆茨判定
開示される過去は「4、少女期」。
◆描写
太い道を進んでゆくと、ひらけた場所に出た。広場の中央には、美しいエルダナーンの少女像。少女のまわりには七体の妖精像が舞い踊っているが、妖精像は無惨に壊されている。少女像の台座には文面があるが、切り裂かれてしまっている。
道は、そのまままっすぐ奥へ続いているようだ。
◆解説
少女像は、ヴェルナの15歳の誕生日(両親が殺された日)の朝に完成して広場に飾られた。両親からのプレゼントのひとつであり、ヴェルナの美貌がちょっと美化した感じに彫られている。
少女像の台座には両親からのメッセージとステファンの文字があり、運命の糸車へ続く隠し扉になっている。
このシーンでは、判定による謎解きを行い、シナリオの全容を掴む。以下の流れで判定を行わせる。
台座文面を読む:ステファン家について
妖精像を見る:妖精殺しの魔女ヴェルナについて
少女像を見る:隠し扉発見
◆台座文面
『愛しい我が子と、やさしき妖精の永遠の絆を祈って――ヒューバート・ステファン、メリー・ステファン』
◆判定/ステファン家
難易度【知力】13、PC4には達成値ボーナス+2。
6代続いた善良な貴族。自然を愛し、妖精を友としてのんびり暮らしていた。貴族でありながら商家でもあり、商っていたのは織物。紡いだ糸が超キラキラしてると評判。
7代目となるべき跡取り娘が15歳を迎えた日に、家の敷地ごと姿を消した。
ステファン家から逃げた妖精が「ヴェルナがひどいことをした」と泣いていたことから、女魔法使いヴェルナに滅ぼされたという噂がある。
◆判定/妖精殺しの魔女ヴェルナ
難易度【知力】12、PC3に達成値ボーナス+2。
美しくも邪悪な女魔法使い。エルダナーンが邪悪化して、ヴァンパイアになっている。
妖精の魔力を上手く引き出すことが可能だったが、妖精を殺して魔力を自分に取り込むことが可能だと気付き、数々の妖精を殺した。
百年前、ステファン家の妖精を殺して家を滅ぼした後、急に姿を消した。
……という設定で妖精達の間で異様に恐れられているが、実際に姿を見た人間はいないため、実在は疑わしい(妖精が街に寄り付かず作物の出来に影響が出たため、神殿が指名手配を行って恐怖感情を緩和した)。
◆判定/少女像
難易度【感知】13、PC2に達成値ボーナス+2。
地下に続く階段を発見する。
◆結末
(地下に入る)シーン6:地下祭壇
(奥の道を進む)シーン7:宝物塔の番人 ……へと分岐。
●シーン6:地下祭壇
◆描写1
薄暗い階段を降りてゆく。最後の段を降りた瞬間、ガラガラという音が聞こえ、天井から鉄格子の檻が降りてきた!
◆解説1
先頭を進むPCに【危険感知】難易度15を行わせる。
失敗したら「捕獲檻」(『ドレッドダンジョン』P,113)に閉じこめられる。同時に「テレポーター」(『同上』P,116)+「オーバーレンジ」(『同上』P,110)が発動して、少女像の前まで転送されてしまう。転送されたPCは、落下ダメージ5ダイスぶんの物理ダメージを受けること。
捕獲檻は一度のみしか発動しない(檻ごと転送されるから)ため、発動後は安全に通行する事が可能。
◆描写2
侵入者用の罠を抜けて、薄暗い通路を歩く。着いた行き止まりの空間には、小さな祭壇。
祭壇の上にある小さな銀の糸車は、ふわりとやさしい光を放ちながら、ひとりでに回って聖なる銀糸を紡いでいる。
カラカラ、カラカラ、音が鳴る。その音にひきこまれるように、見える過去。
◆解説2
自分の元まで辿り着いた冒険者に、運命の妖精が「自分の愛し子(ヴェルナ)が邪悪化して封じられた瞬間」を見せる。開示される過去回想は「5、100年の眠り」。
ヴェルナの封印に使用されているため、糸車に糸つむはない。糸つむがない状態にも関わらず、糸車は糸をつむぎ、その糸は空中にて途切れている(敷地全体を覆っている)。
◆描写3
カラカラ……カラカラ……音が鳴り終わる。
銀の糸車が止まり、かぼそい少女の声が聞こえた。
“どうか……止めて。邪悪に堕ちてしまったあのこを”
銀色の夢で聞いた声だとPC1が気付いたとき、PC1の手の中には、妖精の翼をあしらった小さなコインがあった。
PC達にコインをたくし、銀の糸車は、また静かに回りだした。
◆解説3
運命の妖精が、自らの元に辿り着いた冒険者にヴェルナの凶行を止めて欲しいと願う。
PC1が入手したオリジナルアイテム「ステファンのコイン」は「シーン7:宝物塔の番人」にて使用する。
コインを入手して地上に戻ると、茨は銀の糸に変わっている(運命の妖精に認められて、真実の姿が見えるようになった)。以降、道を進む判定が必要なくなる。
◆結末
コインを入手して地上に戻ると、地上の様子が一変している。張り巡らされた茨は銀の糸に変わり、PC達が進もうとすると、自然にほどけて道がひらいていった。
●シーン7:宝物塔の番人
◆描写
少女像の広場を抜けて奥へ進むと、道はY字路になっていた。上空を見上げれば、片方が屋敷に続く道、もう片方が高い塔に続く道。ただ、屋敷に続く道に絡んでいる銀糸は何故か外れない。
諦めて塔へ向かうと、高い高い塔の扉には、目と口がついていた。落ち着いた声が響き渡る。
「我は番人、この先に眠るは我が盟友ステファンの宝。ステファンの許可無き者よ、迅く立ち去れ」
◆セリフ
▼宝物塔の番妖精
(コイン渡す)「ステファンの証、確かに」
(コイン渡さない)「この先に眠るはステファンの宝。許可無き者はけして通さぬ」
(扉を通る際に)「この先に眠るは悪しき宝。ゆめゆめ惑わされるな……」
(無理矢理通ろうとする)「宝を奪わんとする盗人よ、我の牙で噛み砕いてくれる!!」
◆解説
シーン6で入手する「ステファンのコイン」を、「5、100年の眠り」で見たように使えば(番人の口に投げ入れれば)、戦闘を回避して宝物塔へ入ることができる。(持っていない場合でも、無理に通ろうとしなければ「立ち去れ」と警告するのみ)
扉は、むりやり通ろうとして戦闘に持ち込み、勝利しても通ることができる。
戦闘になった場合、使用するデータは「グロームドア」(エネミーガイドP.92)1体。スキル《プロテクション》5を追加し、レベルを3足すこと(《プロテクション》使用時は、あたりに張り巡らされた銀の糸が扉を守る演出を行う)。
コインを使っても戦闘をしても、成長点の「倒したエネミー数」に加算することに注意。
番妖精はステファン家の初代当主の友人であり、ステファン家と妖精達の友情の原点。死の床で「おまえの宝(家族)を守り続ける」と誓った小さな妖精は、扉に宿って友との約束を守り続けている。
◆結末
塔の内部はらせん階段。
くるくると登った最上階に、部屋はひとつだけ。ここが最後の部屋だ。準備を整えて扉を開けよう。
クライマックスフェイズ
●シーン1:妖精殺しのお姫様
◆描写
壁には絵画や宝剣が飾られ、床にはきれいな装飾のついた箱がたくさん。そこまで価値のある物はないが、品物の多くには妖精の祝福が授けられており、きらきらとやさしい光を放っている。
そんなやさしい空間の奥に、うごめく影がひとつ。
アリアンロッドの銀の糸で全身を拘束され、心臓に糸つむを突き立てられた金髪碧眼の少女。ささった糸つむと伸びる銀糸が少女の邪悪を吸い取り、紅に染まっている。
「やっと……百年経ったのね……! こんなものでわたくしを縛ろうなんて許せない! 運命の妖精め! 思い知らせてやる、あとの六匹と同じ場所に送ってやる!!」
心臓に突き立てられた糸つむを力任せに引き抜いた瞬間、少女の姿が変容する。
噴き出す血が刺青のように少女の肌を彩り、髪と瞳も赤く染まる。唇からは長い牙がのぞいたその姿は、邪悪そのもの。
――妖精殺しの魔女ヴェルナ。
抜いた糸つむを投げ捨てた魔女は、爛々と輝く瞳で、冒険者を射抜いた。
◆セリフ
▼ヴェルナ
「足りないわ、力が足りない……! あの忌々しい妖精を、世界をわたくしに跪かせるためには生気が必要よ!」
「下賎な冒険者。おまえたちで我慢してあげるわ……わたくしの糧となりなさい、パパとママみたいに!!」
◆解説
部屋は25m四方。PC達は2m位置で1エンゲージ、ヴェルナは20m位置。ヴェルナと同エンゲージに「アリアンロッドの糸つむ」が落ちている。
ヴェルナがセリフと共に冒険者達に襲いかかり、戦闘が発生する。
戦闘開始と共に、ヴェルナが胸から下げていた6色に輝くペンダントが一色に染まり、属性に対応した演出が起きる(第1ラウンドで水属性魔法を放つなら、ペンダントは青く染まり足元が水に浸される)。
PC達は戦闘前に「ヴェルナをエネミー識別」「糸つむをアイテム鑑定」「ペンダントをトラップ探知」のうち、1人1つを選択して行う。達成値ボーナスはハンドアウト固定だが、PC5は選択した判定の達成値に+2してよい。
判定値・明かされる情報は以下の通り。
ヴェルナ:エネミー識別値18(PC1・PC2は達成値ボーナス+2)、下記「ヴェルナデータ」
糸つむ:アイテム鑑定値18(PC3は達成値ボーナス+2)、下記「アリアンロッドの糸つむ」
ペンダント:トラップ探知値18(PC4は達成値ボーナス+2)、下記「妖精の祝福」
それぞれの処理が終わると、戦闘開始。
◆妖精殺しの魔女ヴェルナ・エネミーデータ
「ヴァンパイアメイジ」(エネミーガイドP.74)を改良。レベルは7。
具体的には、スキル構成が《スキルマスター:メイジ》3、《禁忌魔術》1、《超絶魔力》4、《無限の力》1、《属性攻撃:闇》1、《ドレインパワー》3 ……になっている。
戦闘方法としては、「妖精の祝福」がある限り、自分の優位を確信して攻撃のみを行う。毎ラウンド、ペンダントの属性を変更して攻撃することが望ましい。
ペンダントを破壊された次のイニシアチブプロセスから、補助魔法(《ストーンスキン》《ウインドバリア》《マジックコート》など)を使う。
HPが半分以下になれば、武器攻撃を行って《ドレインパワー》を発動させ、HPを回復する。
◆オリジナルアイテム/アリアンロッドの糸つむ
マイナーアクションで拾える。「妖精の祝福」解除時に所持している(糸つむをペンダントに突き立てる)と、解除判定に+1ダイスする。
◆オリジナルトラップ/妖精の祝福
レベル7、トラップ解除が成功した場合のみ「倒したエネミーの数」に追加する。
ヴェルナが殺した妖精達の魔力が凝縮されたペンダント。ラウンド毎にキラキラ色を変えるよ、とってもオシャレ★ 効果は以下の通り。
・あらゆる判定値に+1ダイス。
・物理&魔法防御力が+5。
・攻撃でダメージを与えると、魔法属性に合わせて追加トラップが発動。
・(ヴェルナのレベルは10未満だが)光・闇属性の精霊魔法が使える。
・トラップ解除可能。ヴェルナにエンゲージして、胸のペンダントを破壊する。
◆妖精の祝福/追加トラップ
攻撃方法→追加トラップの順に表記。PCレベルによってトラップ効果のダメージ等は変更したほうがよい。その場合は、『ドレッドダンジョン』P,18のトラップカスタマイズ表を参考に「妖精の祝福」のトラップレベルを変更すること。
光・闇属性については、「7レベルであるヴェルナが光闇属性の精霊魔法を使える」ことが祝福効果にあたるため、追加トラップは発動しない。
《アースブレッド》→《堅い床》 『ドレッドダンジョン』P,110
《ウォータースピア》→《毒針》 『ドレッドダンジョン』P,111(PC達の判定ダイスがウォータースピア効果で既に減っていることに注意)
《エアリアルスラッシュ》→《モンスターゲート》 『ドレッドダンジョン』P,121(エネミーガイドP,90「フライソード」あたりがオススメ)
《ファイアボルト》→《灼熱地獄》 『ドレッドダンジョン』P,117
◆結末
PC達が勝利した場合はエンディングでシーン1に、PC達が敗北した場合はシーン3に分岐する。
エンディングフェイズ
●シーン1:銀の感謝
◆描写
「どうして……?」
心底ふしぎそうにつぶやき、魔女ヴェルナは倒れた。
カラカラ、カラカラ、糸車が回る音がする。砕けたアリアンロッドの糸つむの欠片が宙に浮かび、銀色の糸車を回す少女の姿に変わる。少女の体はところどころが欠けていて非常に痛々しいが、その表情は満足そうだ。
妖精が紡ぐ銀色の糸がヴェルナの体を包む。砕けたペンダントから、6色の光が飛び出てヴェルナに寄り添った。
カラカラ、カラカラ。
銀色の光がひときわ輝く。糸がほどけた後、そこには何もなかった。
◆解説
保護者妖精ズ(運命の妖精&6妖精)が、ヴェルナの魂を連れてアリアンロッドの輪に戻るシーン。
クライマックスでアリアンロッドの糸つむを使用していなかった場合は、銀の妖精の体に欠けはなく、妖精達が消えた後に「妖精の祝福」ペンダントとアリアンロッドの糸つむが場に残る。ただし、既に妖精は宿っていないため効力はない。それぞれ1000G程度の価値にはなる。
セリフにて銀の妖精が指したのは「おしゃれの盾」(アイテムガイドP,154)。宝物庫の中身は、「妖精からのプレゼントという宝物」のため、商品価値のある(売り払える)アイテムはおしゃれの盾以外にはない。
◆セリフ
▼銀色の糸車の妖精
“ヴェルナを……わたしたちの名付け子を、止めてくれてありがとう”
“あの子の魂は……わたしたちが連れていくわ……”
(壁にかかっていた盾を指差す)“……それ。あげるね……”
◆結末
“ありがとう……”
ささやいて、銀の妖精はかききえる。
外に出ると、茨(銀糸)はすっかりなくなっていた。
(続いて、シーン2に移行する)
●シーン2:依頼完了
◆描写
神殿に戻ると、神殿はざわめいていた。依頼をくれた神官が駆け寄ってくる。
◆セリフ
▼神官
「おかえりなさい。無事のご帰還、なによりです」
「街外れの屋敷の茨が消えました。屋敷で何かありましたか?」
(説明を聞いた)「私共が予想するより、はるかに強大な邪悪が巣くっていたのですね」
「報酬は、皆様に一括で1000Gお支払いします」
「依頼はこれで完了です。おつかれさまでした」
「ギルドを組まれるのでしたら、手続きはこちらになりますよ?」
◆解説
神官は、ヴェルナ討伐の説明を受けると「全員で依頼をこなした」として、一括で報酬を支払う。内訳はPCに任せる。
この際、「討伐依頼が出ているヴェルナを倒した」などの理由で報酬割り増しの交渉がなされたら、応じること。追加目安は「報酬の半額」である。
◆結末
カラカラ、カラカラ。満足そうな糸車の音が、聞こえた気がした。
●シーン3:敗北
◆描写
強大な魔術の前に、君達は倒れた。
◆解説
ヴェルナに敗北し、とどめをさされる。
PLとGMが望むならば、「神殿から助けが来る」「他PCを作成して再度シナリオを遊び、とどめをさされる瞬間にPC達を救出する」などの救済措置をもうけても構わない。
◆セリフ
▼ヴェルナ
「あら、この程度で仕舞いなの? ふふ……っ、やっぱり、わたくしに敵うモノなどいないのね!」
「魔力を補充しましょう。100年の間に、どれだけ妖精は増えたのかしら? 楽しみね……っあはははははは!!」
◆結末
ヴェルナの哄笑にまぎれて、カラカラ、カラカラと哀しげに糸車が回る音が聞こえた気がした。
その音に答える力は、君達にもう残されていなかった。
■アフタープレイ
成長点表の“ミッションに成功した”欄は、エンディング:シーン1の場合は14点、シーン3の場合は0点となる。
●ヴェルナ過去回想
※回想の赤髪刺青の女 = ステファン家の金髪碧眼美少女 = ヴェルナである確信をもつのは「シーン6:地下祭壇」時である。それまでは、ヴェルナという名称は使わず、「金髪碧眼の美少女」など、特徴で呼ぶ。
1、現在
くらい闇の中。ぼんやりと光る銀色の糸。
髪と瞳を真っ赤に染め、肌にも紅い刺青をした女が、銀糸に拘束されながらもがいている。うめく唇からは、鋭い牙がのぞいていた。
「ゆるさない……! わたくしを、こんな……ゆるさない……!」
ふしぎに色を変えるペンダントが、胸でゆれた。
2、生まれた日
屋敷の大広間。数々のごちそう、テーブルの中央にはバースデーケーキ。
プレゼントを持った招待客、それを笑顔で迎える温厚そうなエルダナーンの夫婦。ゆりかごの中には、金髪碧眼の赤ん坊。
大広間を飛びまわる数え切れない妖精達の内、代表して、7人の妖精が赤ん坊のゆりかごへ。
火、水、風、土、光、闇。六元素を持つ妖精が、赤ん坊にキスをして祝福を与えてゆく。
七番目――第七元素『運命』の属性を持つ少女妖精は、銀の糸車を回しながら、赤ん坊の額にキスをする。
“この祝福が、貴女を幸福な運命へと導きますように。もしも貴女が邪悪な運命に堕ちてしまったなら、銀の糸つむが貴女を止めますように”
3、幼少期
幼くも美しい少女が、金の髪をなびかせ、精霊魔法を駆使している。
敷地の木々をなぎ倒し、大型の獣に魔法をぶつけて遊んでいる。基本の四魔術のみならず、光と闇の魔術さえ軽々と操る姿は、自分への自信にあふれている。
少女のまわりには、すごいすごいとはしゃぎ、少女をほめたたえる妖精たち。しかし、一部の妖精は、おびえたように少女に告げる。
「みんな仲良しだよ、攻撃魔法なんていらないよ」
「だめだよ。運命の妖精さまに怒られ……きゃあっ」
おずおずと言った妖精は、少女の平手によって地面に叩きつけられる。
苛立たしげに舌打ちして、少女は傲慢に言い放った。
「うっとうしいわね。黙ってわたくしに従えばいいのに、どうして口答えばかりするのかしら……運命の妖精なんて、返り討ちにしてやる」
4、少女期
美しい少女の足元に、たくさんの妖精が倒れている。少女が足蹴にした妖精の体から、色とりどりの光があふれ、少女の胸のペンダントに吸い込まれていく。
ばたばたと慌てた足音が聞こえ、後方の扉が開かれた。入ってきたのは、顔を青くしたエルダナーンの夫婦。
「妖精が……これは何事だ!?」
怒り狂う両親に、涼しい顔で少女は答える。
「わたくしは才能を与えられたの。それを使ってるだけなのに、妖精共は口答えばかり。わたくしより弱いクセに! だから、あいつらの機嫌を取るのはやめたわ。そう――妖精は、わたくしに魔力だけ捧げればいい!」
高笑いする少女の胸には、六色に輝くペンダント。
不思議な光を放つソレをいぶかしげに見る両親に気付き、少女はにたりと醜悪に笑んだ。
「あなたたちも、わたくしに生気を捧げなさい!!」
少女の口から、鋭い牙がのぞく。金の髪をなびかせ、少女は両親に襲いかかった。
5、100年の眠り
金色だった髪と青かった瞳を赤く染め、肌に赤い刺青をした少女。鋭すぎる牙をのぞかせ、口元からは血をしたたらせながら歩いてゆく。
自分のバースディパーティーがひらかれた大広間を抜け、自分と七妖精の彫像の飾られた広場を抜け――通過する際に、妖精像を壊し――高い塔の前へ。
にぎりしめていた血まみれのコインを扉の口に投げ入れて扉をひらくと、らせん階段を登り、最上階へ辿り着く。
宝物庫で、自身にふさわしい宝物をあさろうとしていた少女が、いつの間にか手に取っていたのは銀の糸車。
カラカラ、カラカラ、回る糸車が銀糸で少女――ヴェルナをとらえる。
ヴェルナの胸のペンダントを狙って糸つむが飛ぶが、ヴェルナの必死の抵抗により狙いは外れる。しかし糸つむは、ヴェルナの左胸に突き立った。
「運命の妖精め、アリアンロッドの下僕め! わたくしは死にはしない、ただ百年眠るだけ!!」
妖精の祝福を邪悪な呪いで弱め、魔女ヴェルナは深い眠りに落ちる。
ヴェルナをとらえていた銀の糸が、敷地中に張り巡らされてゆく。
他、少女期(3と4の間くらい)
美しい金髪碧眼の少女が、両親と共にソファに座っている。テーブルをはさんで向かい合うのは、恰幅のいい老紳士。
「××さま。このたびは、よい取引をありがとうございます」
「何をおっしゃるやら。素敵な銀糸を安価でいただけまして、こちらこそステファンさんに感謝の気持ちでいっぱいですよ。それにしても、この御家の庭には、たくさんの妖精が遊んでらっしゃるんですなぁ」
「妖精とわたくし共は、友人なのです」
「素晴らしいことですな。フォッフォッフォッ」
両親と老紳士がやわらかな笑顔を浮かべる中、少女のみが不機嫌そうな顔をしている。
少女は、誰にも聞こえぬよう、毒を吐いた。
「……どうしてわたくしが頭を下げねばならないの。わたくしより低能なクセに……!」
他、少女期(4の少し前)
少女はイライラした様子で、精霊魔法を四方八方に放っている。庭の木々が倒れ、花が無惨に散らされてゆく。庭に遊んでいた妖精たちは、うろたえながら少女に話しかけるが、すべて無視をされていた。
と、少女の前に出た妖精の一匹が、流れ弾に当たってしまう。
「……っ!!」
悲鳴ひとつあげる余裕もなく、妖精は倒れる。羽が千切れたその姿に少女は動揺し、妖精に手を伸ばす。
――アリアンロッドの腕に抱かれた妖精の体から、光があふれた。
「え……?」
あふれた光が、少女のてのひらに、吸いこまれた。
少女は、自身の体に流れこむ魔力を自覚した。衝撃に固まっていた表情が、ゆったりと邪悪に歪む。
「……そう。これが祝福……そう、そうだったの!!」
妖精達の泣き声と少女のふりきれた笑いが、屋敷の庭に響き渡っていた。